2011/08/19

「原発」被害では片付けられない負債総額4300億円「今年最大の倒産」となった和牛商法「安愚楽牧場」が抱える根源的問題

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/16325
「原発」被害では片付けられない負債総額4300億円「今年最大の倒産」となった和牛商法「安愚楽牧場」が抱える根源的問題
2011年08月18日(木)

 負債総額4300億円---今年最大の倒産となった安愚楽牧場は、債権者の大半が一般投資家で、返済率が10%に満たないことが予想されるだけに、刑事事件への進展も含め、今後、社会問題化することは必至だ。
 「本年3月11日の東日本大震災以降、福島第一原子力発電所の放射線漏れ事故による牛の放牧制限、放射性セシウムの検出による出荷制限等と、同社の経営は大きな制限・打撃を受け・・・」
 債権者に送られた代理人弁護士の「通知書」(8月1日付)にはこう書かれていた。「風評被害」も含めて、原発事故の被害者であるという認識で、事実、安愚楽牧場は補償を求める方針を明らかにしている。

「原発」「口蹄疫」「飼料高騰」だけが原因ではない
 昨年には宮崎県で口蹄疫問題が発生、安愚楽牧場では約1万5000頭を「殺処分」にした。この時は農林水産省が約88億円を補償、直接の被害は免れたものの、「牛の異状について通報に遅れがあった」として宮崎県から改善指導を受け、また同社の姿勢を地元紙から厳しく批判され、イメージの低下は免れなかった。
 加えて、ここ数年で急激に高騰した飼料問題もある。20年近く、和牛の販売価格は卸、小売価格ともに横這いかデフレ経済を映して下落。そうした状況下で、飼料の高騰と口蹄疫問題で打撃を受け、さらに福島原発事故でとどめを刺された。
 「3重苦」が安愚楽牧場を襲ったのは確かだが、4300億円の負債総額で預託金を拠出したオーナー(投資家)が7万3000人にのぼるという被害規模は、「和牛預託商法」というビジネスモデルそのものの破たんがもたらしたものである。
 あなたも「和牛」のオーナーになりませんか---。
 高原、農村、和牛の三点セットの写真を使い、"牧歌的"な装いを凝らしたパンフレットで投資家を誘い込む「和牛預託商法」がブームになったのは、1996年以降の数年間だった。
 当時、金融界は、証券・銀行が次々に倒産、どこも信用できないという状況のなかで、「和牛」は確かさを感じさせ、しかも3%から高いところでは7%前後の高利を謳い、一口100万円という価格も、投資を誘い込みやすかった。
 「和牛預託商法」は一大ブームとなり、全国に20社近い業者が乱立、株式などの投資に縁のない主婦、老年層を中心にオーナーを集めていった。
 その大半は、詐欺まがいのインチキ業者だった。
 私は、その頃、不動産、金融先物、株式など多種多様なビジネスから転身した「和牛預託商法」の経営者たちを取材した。彼らの多くは、事務所を開き、新聞チラシを配布、肥育牧場と契約して投資のステージを確立しただけで、「びっくりするぐらいカネが集まる」と、悪びれることなく語るのだった。
 また、この商法の特徴は、利回りのほかに「和牛肉を1万円分」といった具合に、投資額に応じて現物支給、オーナーとの"連帯"を売り物にしていた。だが、にわか業者が多いから、牛肉の現物がない。子牛を買っても出荷までに2年はかかるのだから当然で、都内の業者を取材した時には、デパートで牛肉を購入、社員が事務所で段ボールに詰め、クール宅急便でオーナーに送る場面に遭遇、唖然とした覚えがある。

「畜産農家はかつかつでやっているのに」
 当然、ブームが去るのは早い。
 警察庁の指示で、都道府県警が捜査着手、多くのインチキ業者が、詐欺や出資法違反で摘発され、運よく刑事事件化を免れた業者も、オーナーの返還請求続出で、経営破たんしていった。
 唯一、残ったのが「和牛預託商法」の元祖である安愚楽牧場だった。それは、元祖に相応しい規模と実績を持っていたからだ。
「取材をするなら、まずウチの牧場を見学してください」
 同社の三ヶ尻久美子社長にいわれ、東北新幹線那須塩原駅から車で約30分の本社牧場を見学したことがある。
 44万平方メートルの広大な敷地に800頭の和牛が肥育されており、畜舎が整然と並んだ様子は壮観だった。その時点で、オーナー数は約3万人、全国の飼育頭数は約4万5000頭、直営牧場が11ヵ所にあり、ほかに182ヵ所の契約牧場があった。
 三ヶ尻社長は、子牛を買って肥育して販売するだけではなく、繁殖牛を飼い、子取りをして肥育する一貫体制を敷いたうえで、加工場、通信販売、レストラン経営などトータルに事業展開していることが"成功"につながった、と強調した。
 もちろん、にわか業者と安愚楽牧場の差は歴然としていた。
 しかし、牛を金融商品にして一般投資家から資金を集めるというシステムの脆弱さは、疑いようがなかった。
 3%から5%の金利を払い、定期的に牛肉などの商品をプレゼント、それで成り立つほど畜産業は甘くない。
 畜産農家のこんな言葉を聞いたことがある。
「2年かかって肥育して、粗利が10%を超える程度。そんなカツカツの状態だから畜産農家に跡継ぎはいない。都会の革靴を履いた連中が、どうして利益を保証できるのか、私らには理解できん」

安易に「風評被害」の補償に対象にするな
 皮肉にも、その答えが安愚楽牧場の急成長だった。
「和牛預託商法」がブームだった頃から14年が経過、同社の規模は倍増、オーナーは7万3000人、飼育頭数は14万6000頭になった。
ただ、危機は「新規募集」でしのぐという自転車操業で、規模がやむなく膨らんだという意味では、マルチの無限連鎖商法に似た危うさを秘めていた。
 証拠に、原発事故で経営が悪化、それを乗り切るために高配当での委託オーナーを新規募集している。
 また、既存会員には「特別なオーナー様にだけご紹介」として、半年で8%というとてつもない高利を約束。それが、破たん直前の6月や7月に行われていたことから、「全国安愚楽牧場被害対策弁護団」の団長である紀藤正樹弁護士は、「出資法、預託法違反の恐れが強い」と、指摘している。
 原発事故から半年で倒産し、負債総額が4300億円というのは、債務超過が続き、配当を新規募集でつなぐ自転車操業の証明で、決して原発事故が原因ではない。
 投資は自己責任が原則。だが、安愚楽牧場の勧誘方法が問われるのはもちろん、ビジネスモデルが破たんした「和牛預託商法」を見逃した行政当局の責任問題も生じよう。
 そうした破たん原因の解明と責任の追及なしに、「風評被害」で安易に原発賠償金を支払ってはなるまい。

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