http://sankei.jp.msn.com/affairs/print/110924/crm11092412000006-c.htm
【追跡・安愚楽破綻】(中)破綻必至の自転車操業 和牛オーナー制度行き詰まりの舞台裏
2011.9.24 12:00
『肥育牛売買コースのご案内』-。宇都宮市の和牛オーナーは、7月中旬に安愚楽牧場から届いた新規コースをPRする1枚のチラシに違和感を覚えた。『新企画特別なオーナー様だけにご紹介!』という文句が踊り、半年で8%を超す配当がうたわれていた。
子牛の売却益を利益として配当する安愚楽牧場の和牛オーナー制度で扱われていたのは、子牛を産むために飼育される繁殖牛。食肉用に飼育される肥育牛が“商品”として紹介されたことは、記憶になかった。
「6月にはオーナーへの利益などの支払いを停止し、実質破綻状態にあった。返済能力がない状態で新たな出資を募ったことは、詐欺の可能性がある」
安愚楽牧場被害対策栃木県弁護団の伊沢正之団長は指摘する。安愚楽牧場側は経営状況を把握していない従業員が出資を募り、詐欺には当たらないと主張。しかし、伊沢団長は「配当停止は従業員も知っているはず」と反論し、「契約時に配当停止などの重要な事柄を伝えていなければ、預託法違反の可能性もある」と語気を強めた。
和牛に出資し配当を得る和牛預託商法は、平成7~9年ごろに社会問題となった。高利回りをうたって出資を募りながら、実際には牛を所有していない事業者も多く、出資者の解約が相次ぎ破綻に追い込まれた。しかし、7年3月時点で約2万7千頭の牛を所有し経営を続けてきた安愚楽牧場は、「最後の砦(とりで)」と呼ばれた。
「安愚楽には牛がいるから大丈夫だと思った」
多くのオーナー債権者が声をそろえるように、同業者が相次いで破綻するなかで生き残ったことが、結果的に安愚楽牧場の信頼を強固なものにした。
出資者の信頼は、さらなる投資につながった。12年3月には、安愚楽牧場が所有する牛は約6万5千頭に増加した。その5年後には約11万頭、さらに5年後の22年3月には約15万頭。牛の頭数に比例するように、7年3月に237億円だった売上高は、22年3月に784億円に達した。
「取引業者も含め、安愚楽牧場を優良企業だと評価していたはずです。レストランや加工食品事業への拡大など、リスクマネジメントもしっかりしていた」
東京商工リサーチ宇都宮支店の担当者は、そう振り返った。同社が出した企業レポートで、安愚楽牧場は全国平均を大きく上回る高得点を記録し続けた。
「そもそも安愚楽牧場は破綻必至の詐欺商法だ」
宇都宮市内で8月28日に開かれた安愚楽牧場被害対策説明会で、県弁護団はオーナー債権者に切り出した。弁護団が問題視するのは、安愚楽牧場が毎年の配当に加え、契約期間満了時に出資した全額の返還を基本にしている点だ。
「牛の餌代や従業員の賃金はどこから支払われているのか?それは新たな出資者の出資金。出資者が増え続けなければビジネスモデルが成り立たない自転車操業だ」
滞ることなく支払われ続けた配当金は、新たな出資者を獲得したり、契約期間が満了した出資者に再び出資を促したりするための“材料”だったと指摘する。
弁護団は詐欺や預託法違反などの疑いで、安愚楽牧場側を刑事告発することも視野に入れて、具体的な勧誘方法など、和牛商法の全容解明を急いでいる。
だが、捜査関係者の反応は鈍い。「ある一点だけを見て詐欺だということは可能かもしれない。しかし、当初から詐欺だったというには判断材料が少なすぎる…」
優良企業として成長を続けてきたはずの安愚楽牧場に見え隠れする新たな一面に、県内のあるオーナー債権者は複雑な心境を吐露した。
「安愚楽にはいい思いをさせてもらったという気持ちもある。ただ、法に触れることをしているのであればうやむやにはしてほしくない。新たな被害者を出さないためにも…」
© 2011 The Sankei Shimbun & Sankei Digital
【追跡・安愚楽破綻】(中)破綻必至の自転車操業 和牛オーナー制度行き詰まりの舞台裏
2011.9.24 12:00
『肥育牛売買コースのご案内』-。宇都宮市の和牛オーナーは、7月中旬に安愚楽牧場から届いた新規コースをPRする1枚のチラシに違和感を覚えた。『新企画特別なオーナー様だけにご紹介!』という文句が踊り、半年で8%を超す配当がうたわれていた。
子牛の売却益を利益として配当する安愚楽牧場の和牛オーナー制度で扱われていたのは、子牛を産むために飼育される繁殖牛。食肉用に飼育される肥育牛が“商品”として紹介されたことは、記憶になかった。
「6月にはオーナーへの利益などの支払いを停止し、実質破綻状態にあった。返済能力がない状態で新たな出資を募ったことは、詐欺の可能性がある」
安愚楽牧場被害対策栃木県弁護団の伊沢正之団長は指摘する。安愚楽牧場側は経営状況を把握していない従業員が出資を募り、詐欺には当たらないと主張。しかし、伊沢団長は「配当停止は従業員も知っているはず」と反論し、「契約時に配当停止などの重要な事柄を伝えていなければ、預託法違反の可能性もある」と語気を強めた。
和牛に出資し配当を得る和牛預託商法は、平成7~9年ごろに社会問題となった。高利回りをうたって出資を募りながら、実際には牛を所有していない事業者も多く、出資者の解約が相次ぎ破綻に追い込まれた。しかし、7年3月時点で約2万7千頭の牛を所有し経営を続けてきた安愚楽牧場は、「最後の砦(とりで)」と呼ばれた。
「安愚楽には牛がいるから大丈夫だと思った」
多くのオーナー債権者が声をそろえるように、同業者が相次いで破綻するなかで生き残ったことが、結果的に安愚楽牧場の信頼を強固なものにした。
出資者の信頼は、さらなる投資につながった。12年3月には、安愚楽牧場が所有する牛は約6万5千頭に増加した。その5年後には約11万頭、さらに5年後の22年3月には約15万頭。牛の頭数に比例するように、7年3月に237億円だった売上高は、22年3月に784億円に達した。
「取引業者も含め、安愚楽牧場を優良企業だと評価していたはずです。レストランや加工食品事業への拡大など、リスクマネジメントもしっかりしていた」
東京商工リサーチ宇都宮支店の担当者は、そう振り返った。同社が出した企業レポートで、安愚楽牧場は全国平均を大きく上回る高得点を記録し続けた。
「そもそも安愚楽牧場は破綻必至の詐欺商法だ」
宇都宮市内で8月28日に開かれた安愚楽牧場被害対策説明会で、県弁護団はオーナー債権者に切り出した。弁護団が問題視するのは、安愚楽牧場が毎年の配当に加え、契約期間満了時に出資した全額の返還を基本にしている点だ。
「牛の餌代や従業員の賃金はどこから支払われているのか?それは新たな出資者の出資金。出資者が増え続けなければビジネスモデルが成り立たない自転車操業だ」
滞ることなく支払われ続けた配当金は、新たな出資者を獲得したり、契約期間が満了した出資者に再び出資を促したりするための“材料”だったと指摘する。
弁護団は詐欺や預託法違反などの疑いで、安愚楽牧場側を刑事告発することも視野に入れて、具体的な勧誘方法など、和牛商法の全容解明を急いでいる。
だが、捜査関係者の反応は鈍い。「ある一点だけを見て詐欺だということは可能かもしれない。しかし、当初から詐欺だったというには判断材料が少なすぎる…」
優良企業として成長を続けてきたはずの安愚楽牧場に見え隠れする新たな一面に、県内のあるオーナー債権者は複雑な心境を吐露した。
「安愚楽にはいい思いをさせてもらったという気持ちもある。ただ、法に触れることをしているのであればうやむやにはしてほしくない。新たな被害者を出さないためにも…」
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