2011/09/23

【追跡・安愚楽破綻】(上)守られていた“約束” 和牛オーナー制度行き詰まりの舞台裏

http://sankei.jp.msn.com/affairs/print/110923/crm11092307010004-c.htm
【追跡・安愚楽破綻】(上)守られていた“約束” 和牛オーナー制度行き詰まりの舞台裏
2011.9.23 12:00

『福島原子力発電所の事故による風評被害等の影響で、牛肉需要が低迷し、出荷売上が計画を下回っています…』
6月下旬のことだった。鹿沼市に住む40代夫妻のもとに一通の手紙が届いた。和牛オーナー制度を運営する安愚楽牧場(本社・那須塩原市)からだった。夫妻は和牛に出資し、誕生した子牛の売却益から飼育委託料を差し引いた配当を受け取る和牛オーナー。手紙はこう続いた。
『…6月度満了金および子牛売却利益金のお支払いを7月末日まで延期頂きます様、お願い申し上げます』
しかし8月になっても満了金は振り込まれない。代わりに届いたのは安愚楽牧場の代理人弁護士からの通知だった。数日後、安愚楽牧場は東京地裁に民事再生法の適用を申請し事実上、倒産した。
負債総額は4330億8300万円。このうち4207億6700万円がオーナー債権者の負債だ。オーナー債権者の多くが一般出資者で、その数は全国で7万3356人にのぼる。
東京商工リサーチの調査では、1人当たりの平均出資額は574万円。1億円以上を出資したオーナーも135人にのぼるという。
夫妻が和牛オーナーになったのは10年ほど前。妻が雑誌で安愚楽牧場の広告を目にしたことがきっかけだった。約5%の配当率は魅力だった。当初の出資額は50万円。契約期間終了後には50万円と配当がちゃんと振り込まれた。夫妻は徐々に出資額を増やし、契約期間終了後に返金された額を再び出資に回すこともあった。
「テレビでCMを流すようにもなり、立派な企業だと思っていた。全国に農場があり、1つの農場がダメでも他があるはずだと安心していた」
口蹄疫の発生で牛肉価格が下落したときも、利息などの支払いが滞ることはなかった。安愚楽牧場の民事再生法適用申請を知ったときには、出資額は2400万円にまでふくれあがっていた。老後の生活費になるはずの金だった。
「すべての約束が守られていた。どんな小さなことでも、期日さえ遅れたことはなかった」
2千万円を出資していた宇都宮市に住む会社員の女性(60)も信頼しきっていた。女性が出資を始めた20年前から、安愚楽牧場は急成長を遂げた。レストランやホテル経営にまで事業を拡大し、街中で“安愚楽”の名前を目にする機会も増えた。「会社が大きくなっていると実感していた」。女性は娘にも出資を勧め、娘も800万円を出資したという。
女性は8月に弁護士からの通知が届くまで、安愚楽牧場が経営危機にひんしていることは知らなかった。毎月届く会報「あぐらニュース」は7月下旬も送られてきた。会報には新規出資を促すコース紹介が掲載されていた。
「最初からだまされていたとは思わない…。口蹄疫に東日本大震災が重なり状況も悪かった。でも最後のやり方には納得できない」
女性は経営危機を隠して新たな出資を募った安愚楽牧場側に怒りを隠さない。
「少しでも多くのお金を返してほしい。働けなくなれば、食べていくことも難しくなるんです」
東京地裁は今月6日、安愚楽牧場の民事再生法による再生開始決定を出した。安愚楽側は再生計画を策定し、債権者集会に諮る。集会で計画が認められれば、再生手続きが始まる。牧場などの全資産を売却し、負債の弁済に充てる計画だ。
しかし、4300億円を超える負債のうち、どれほどが弁済されるか分からない。「1割ほど」ともいわれている。
経営破綻した安愚楽牧場は、社会問題になった和牛預託商法企業が次々に姿を消す中で、「最後の砦(とりで)」とされてきた。県内には2040人のオーナー債権者がおり、東京都や神奈川県などに次いで全国9番目に多い。全国7万人もの出資者を巻き込み「史上最大・最悪の消費者被害」ともいわれる倒産劇の背景を追う。
© 2011 The Sankei Shimbun & Sankei Digital

0 件のコメント:

コメントを投稿