2011/09/25

【追跡・安愚楽破綻】(下)名前だけの黒毛和牛 和牛オーナー制度行き詰まりの舞台裏

http://sankei.jp.msn.com/affairs/print/110925/crm11092512010007-c.htm
【追跡・安愚楽破綻】(下)名前だけの黒毛和牛 和牛オーナー制度行き詰まりの舞台裏
2011.9.25 12:00

「安愚楽の牛は名前だけの黒毛和牛だ」
3年前まで福島県浪江町で安愚楽牧場の預託牧場を営んでいた50代の男性はこう酷評する。男性は安愚楽牧場から子牛を預かり、食用になる肥育牛として飼育していた。
安愚楽牧場の和牛オーナー制度では、子牛の売却益から出資者に配当金を支払う。多くの子牛が高く売れれば、配当金を差し引いた額は安愚楽牧場の利益になる計算だ。そのため、良質な牛を育てた預託牧場には報奨金を支払う制度も設けられていた。
だが、男性が安愚楽牧場から指示を受けた牛の飼育期間は26、27カ月。通常の飼育期間より4カ月ほど短い。もともと、男性が預託牧場を始めたころは28~30カ月で出荷する契約だったが、3カ月もすると出荷前倒しを求めてきたという。
契約した当初の報奨金制度は、「A3」ランク以上で売り上げが80万円を超える牛を育てた農家が対象となっていたが、報奨金を受け取る農家が増えると、対象は「A5」ランクに引き上げられた。
「最後は1頭100万円の売り上げで、報奨金は1%。26、27カ月の若い牛を出荷しても肉質が良くないから100万円の売り上げなんて無理だった」。二転三転する安愚楽牧場の対応に憤りを感じた男性は預託農家を辞めたという。
和牛オーナー数の増加に伴い、安愚楽牧場は平成4年ごろから預託牧場の拡大に力を入れ始めた。
13年ほど前から肥育牛の預託牧場となった福島県双葉郡の男性(58)の場合、預託料として1頭当たり1日100~160円の餌代を毎月まとめて安愚楽牧場から受け取っていた。牛の売買も安愚楽牧場が行い、農家は牛舎の敷物代と光熱費のみを負担する。
「牛の購入代金と餌代がかからないことが最大のメリットだった。今さら独自に畜産業はできない。安愚楽の預託がなくなれば、廃業しかない」
利幅が薄いといわれる畜産業界で、初期投資のかからない安愚楽牧場の預託牧場は増加を続けた。農林水産省の調査によると、預託農家は全国に計346戸。栃木県内にも6戸ある。預託農家が飼育している繁殖牛は約3万5千頭、肥育牛が約3万5600頭に上る。
全資産を売却して債権者への弁済に充てる方針という安愚楽牧場。自社牧場と預託牧場で飼育する14万頭を超える牛が、大きな資産であることは間違いない。安愚楽牧場側は、牛の飼育を続けるために事業を継続できる民事再生法を選択したという説明をしている。
双葉郡の男性の元には、安愚楽牧場が民事再生法の適用を東京地裁に申請してからも、2週間ごとに預託料が振り込まれている。しかし、安愚楽牧場側からは9月になってファクスが届いただけで、今後の飼育や出荷に関する説明は一切ない。
出荷するタイミングを過ぎれば牛の販売価値は大きく下落するだけに、男性は「380頭の牛を抱えているが、年内に出荷しなければいけない牛が200頭はいる。今いる牛の分の支払いだけでもしっかりしてほしい」と頭を抱えていた。
「手をかけて育てた牛は高く売れるものだと思っていた」。和牛オーナーに対して、安愚楽牧場からは牛の価格に関する説明はなかったため、栃木県内のオーナーの一人は高配当を生み出す仕組みを、そう理解していたという。
だが、預託牧場の男性の受け止めは全く逆だった。
「ただ牛を育てているだけで、数をこなせばいいという感じだった」
安愚楽牧場側にとって、牛は資金を集めるためだけの“道具”でしかなかったのだろうか。

この連載は松岡朋枝、伊沢利幸が担当しました。
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