2011/11/19

安愚楽牧場破産 もどかしい消費者庁対応

http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/273901
安愚楽牧場破産 もどかしい消費者庁対応
2011年11月18日 10:44

小説「安愚楽鍋(あぐらなべ)」は、明治初期に東京の牛鍋店に出入りする庶民を描いた戯作(げさく)者仮名垣魯文(かながきろぶん)の代表作だ。和牛オーナー制度で知られた畜産会社「安愚楽牧場」(栃木県)の社名の由来である。
「都会と農村を結ぶ」がうたい文句のその牧場が4300億円もの負債を抱えて破綻したのは、今年8月のことだ。
その後、民事再生手続きを進めたが、財産状況調査の結果、資金繰りが逼迫(ひっぱく)していることが分かった。このため今月、東京地裁が再生手続きの廃止を決定し、財産の保全管理命令を出した。関係者から不服を申し立てる即時抗告がなければ破産手続きに移行することになる。
管財人の弁護士によれば、早期に牛や直営牧場など保有する資産を売却しないと、財産保全どころか牛の餌代も賄えない状況という。多くの牛が餓死してしまえば、社会問題にもなりかねない。これ以上の被害を食い止めるためにも、やむを得ない判断といえるだろう。
ただ、同社は経営悪化後も出資を募っていたことが判明し、新たな出資金を配当に回す「自転車操業」状態だったともいわれる。消費者庁は景品表示法違反の疑いがあるとみて、調査に乗り出している。実態解明を急いでもらいたい。
和牛オーナー制度は、投資家に繁殖牛を購入してもらい、生まれた子牛を牧場の運営会社が買い取って飼育・売却し、利益を配当金として支払う仕組みだ。
一般に和牛預託商法といわれ、低金利時代を迎えた中での利殖商法として登場した。しかし、実際には飼育などせず資金を集めるだけの実態が横行し、1990年代後半になると出資法違反などで業者が摘発され、相次いで破綻した。
これに対し、安愚楽牧場は牧場を実際に経営して和牛も飼育し、利益も還元してきたという。ところが昨年、宮崎県で発生した口蹄疫(こうていえき)に続き、今年の東日本大震災に伴う福島第1原発事故の影響で、和牛の市場価格が急落して一気に資金繰りが悪化してしまったわけである。
民間信用調査会社などによると、出資者は約7万3千人に達し、うち九州・沖縄は約4千人という。直営牧場は宮崎県などに40カ所、牛を預託する農家は全国に346戸あり、全飼育頭数は14万5100頭に上る。飼育頭数では九州が半数を占めるというデータもあり、投資家ばかりでなく、九州の預託農家への影響も深刻だ。迅速な対応が求められる。
それにしても、国の対応は遅すぎる。消費者庁が本格調査を始めたのは、破綻発覚から2カ月後の10月に入ってからだ。和牛など生き物の飼育には常にリスクが伴う。利益が出るとは限らない。
国民生活センターには破綻前から、安愚楽牧場の経営状況や解約方法に関する相談が寄せられていた。もっと早く情報を開示し、注意喚起すべきだった。
同じような被害を生み出さないためにも「消費者行政の司令塔」を自任する消費者庁の真価も問われている。
=2011/11/18付 西日本新聞朝刊=

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